【現地レポート⑯】起爆剤が生み出した大追撃――洛南 #8 田中夢大
2024年12月26日
いきなりの 0-16 でした。それも相手が最も得意とする速攻を何本も決められて、並の高校生であれば、そこで心を折られてもおかしくはありません。しかし、そこから一度は逆転する展開にまで持ち込む洛南 (京都②) は、今なお全国屈指の強豪校のひとつであることを改めて示しています。
SoftBank ウインターカップ2024 の男子 3 回戦、洛南が対戦したのは、前回大会の優勝校、福岡第一 (福岡②) です。冒頭のとおり、第 1 クォーターの立ち上がりに 0-16 と走られますが、その流れを 3 年生ガードの #8 田中夢大選手が断ち切ります。
0-12 の場面で、2 年生のスタメンガード #10 小杉思選手と交代すると、そういった劣勢を「むしろ好きです」という #8 田中選手のフリースローでチームの得点を動かし始めます。その後も自慢の脚力を生かしたディフェンスやリバウンドでチームに勢いを与えていきます。
この日のプレータイムは28分32秒。本来であれば、それほど長く使われる選手ではないと、洛南の河合祥樹コーチは言います。それよりも、短い時間でゲームの流れを大きく変える起爆剤として起用されることのほうが多いようです。
ただ福岡第一戦に関していえば、#10 小杉選手のパフォーマンスがもうひとつ上がっていかないと判断し、#8 田中選手のプレータイムも長くなったと、河合コーチは認めます。
「ただ、今日のゲームに関してはディフェンスにしても、リバウンドにしても、彼がチームに与えてくれた影響はすごく大きかったと思います。彼がいたからこそ、追い上げるきっかけもできました」
ベンチに「流れが悪くなったときには、あいつがいる」と信頼のおける選手を持つことは、コーチにとってとても心強いものです。その選手がまた、コーチの期待に応えようとするからこそ、たとえ相手に流れを奪われようともゲームそのものは熱を失わず、むしろ熱を帯びていくのです。
洛南における #8 田中選手とは、そういう選手であったと言えます。
かつては洛南が京都府をリードしていましたが、近年は東山を追いかけることのほうが多くなっています。昨年度のウインターカップがそうだったように、全国大会に出られない年もあります。それでも洛南の 3 年間を、#8 田中選手は「いい経験だった」と言います。
「洛南のバスケットってチームプレーが大事なのに、3 年生の最初のころは自分のやりたいことと、チームメートのやりたいことが一致しなくて、しんどかったです。でもケンカになってもいいからコミュニケーションを取ろうと、お互いの思いを言い合うようにしました。実際にケンカというか、2 週間くらい話をしないこともありました。それでも言い合って、これまでできていなかったお互いのやりたいことを、お互いが合わせられるようになりました。それは今日のゲームでも結構出たと思っています」
強豪校といっても、みんなが常に同じ方向を向いているとは限りません。時にぶつかり合いながら、それでもひとつになろうとしたからこそ、大きなビハインドにも屈することなく白熱した終盤戦に持ち込むことができたのです。起爆剤になりうる選手がベンチにいることのおもしろさ。そのことを改めて感じさせる男子 3 回戦のゲームでした。